天才脳外科医はママになった政略妻に２度目の愛を誓う

　真知子先生だけじゃない。耳を澄ますとそこかしこから啓介さんを称える声が聞こえてきた。『是非ともうちに来て欲しいんですけどね』『非常勤だそうですよ』啓介さんを欲しがる声。

　この二年私は啓介さんに関する情報をシャットアウトしていた。

　きっと活躍しているんだろうと思いながら、なにも知らなかったのだ。

　啓介さんは、山上総合病院などで人生を終えるような人じゃなかった。最初から道を間違っていた。

　今ならそれがよくわかる。

「凄いなぁ、啓介さん。すっかり雲の上の人になってしまって。あ、もともとそうか」

　あははと笑った。

　軽く笑うつもりがなぜだか簡単に止まらない。口もとを手で隠してくつくつと笑う。

「莉子、かなり酔ってるだろう？　酒が弱いのにダメじゃないか。帰ろう、送っていくから」

　子ども扱いする言い方にカチンときた。

　彼には想像すらできないのだろうか。なぜ私が酔ってしまったのかという理由に。