天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 今度帰国したら連絡くれるって言ってのに、こんなところに突然現れたあなたがいけないんじゃないのと、やり場のない怒りがこみ上げる。

 啓介さんは私と違って大人で、人びとに尊敬されるような立派な人だから、人前で酔った姿なんて決して見せたりしない。なのに私は、どうせ子どもでいつまで経っても足踏み状態の半人前。

 副理事長としてがんばっているなんてただのお世辞だ。

 空回りする怒りは惨めさを増幅させて、居ても立ってもいられなかった。

 とにかく一刻も早く彼から離れないと。みっともない自分をこれ以上見られたくない。

「大丈夫ですよ。ひとりで帰れます」

 テーブルの上にグラスを置き立ち上がる。

 さあ帰ろう。乃愛のもとへ。

「いや、だが」

 差し出された手を避けようとして、勢いがつきすぎバランスを崩す。

「大丈夫か」

 啓介さんに掴まれた腕が熱い。ヒリヒリして心も痛い。

 涙が溢れそうになり、思わず彼の手を振りほどく。

「ほっといてください!」

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