天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 刹那ハッとしたように目を見開く彼と目が合って、逃げ出すようにトイレへ走った。

 なにやってるの? 私ったら。

 こんなところで泣いちゃだめ。しっかりしなきゃ。

 パウダールームの奥へいき、腰を下ろして頭を抱えた。

 ああ……。どうしちゃったんだろう。酔ったとはいえ、こんな態度を取るのは間違っているとわかっているのに。

 ふと、真知子先生の言葉が脳裏に浮かんだ。

『私も、島津先生の子ども欲しい』

 乗り越えなきゃ。私たちはお互いの幸せのために別れたんだもの。

 幸せな彼の未来に私はいないのよ?

 帰国の連絡をくれなくたって仕方がない。もう他人なんだから文句を言える立場じゃない。すべてわかっているのに。

 涙をこらえて深呼吸をして、スマホを取り出した。

 画面の背景になっている乃愛を見つめる。

 情けないな。

 ごめんね乃愛のパパなのにね。

 彼の成功をちゃん祝福してあげなくちゃいけなかった。あんなふうにバカみたいに笑ったりしないで。

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