天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 私と啓介さんには恋人同士という期間がなかった。最初から結婚が決まっていたから恋人とは違う。

 楽しくて仕方がないのに明日はどうなるかわからない。未来が見えなくて、不安で離れたくなくて、ドキドキはらはらするような恋を楽しんだような夜だった。

「あなたたち、どうなっているの?」

 核心を突くような母の質問にドキッとする。

「別にどうもなってないわ。変なこと言わないで」

「はいはい、そうですか」

 そうよ。どんなに楽しくても私はちゃんとわきまえている。

 今だけだ。



 事務室で経理の女性と話をしていると、ふと真知子先生と啓介さんが話をしながら歩いている姿が見えた。

 真知子先生がとても楽しそうに笑っているのをちらりと見て、私は彼らに背中を向けた。

「じゃあ、これでお願いします」

「はい。わかりました」

 今ならふたりに出くわさずに済む。足早に進み事務室を出て、啓介さんたちとは別の方向に向かう。

 その方角には用事はないけれどと考えて、奥の階段に向かった。

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