天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 啓介さんがいた頃は関係者しか出入りできないただなにもないベランダだった。

「寝間着だからって外の公園に出るのは躊躇する患者さんも、ここなら来れるって言ってくれて」

 今も何人かの患者さんが散歩をしたりベンチで休憩していたりする。

「よかったな。喜んでもらえて」

「うん。うれしい」

 にっこりと微笑む啓介さんに胸が不必要に高鳴って困る。母が『あなたたち、どうなっているの?』なんて言うからだ。

「ひよこ園もだが、俺にはこういう発想はない」

「私ができることって少ないから」

「そう謙遜するな。俺も手伝うよ」

 啓介さんはそう言って、素手で花壇に手を伸ばそうとするのを慌てて止めた。

「もう終わりにするから大丈夫。なにか冷たい飲み物を持ってきてくれる?」

「わかった」

 立ち上がって自販機に向かう後ろ姿にホッと胸をなでおろす。

 なによりも大切な脳外科医の手。たかが草むしりとはいえ、なにかあってはいけないもの。

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