天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 院長は彼をよく理解してくれている。ここにいる間は啓介さんが気兼ねなく過ごせるように取り計らってくれるはず。
 私があれこれ心配しなくても大丈夫。

 それでも気になって夕食はどうしているのか聞いてみた。すると――。

「氷の月。最近じゃ、もっぱらあの店なんだ。夕べはタイ料理を出してくれて――」

 楽しそうに話をする彼にホッとして胸を撫で下ろす。

「帰国して間もなく行ったときは煮物とか和食を出してくれて、酒もつまみも一度たりとも外れがなくて」

 あまりに氷の月を絶賛するものだから、私もまた行きたくなってくる。

 この前連れて行ってもらったときも本当に楽しかった。あんなふうに心から笑えたのはいつ以来だろう。

 なにを食べても美味しくて、啓介さんもすごくリラックスしていて、氷室さんも楽しい人で。

「メンバーズオンリーで看板もないから、おかしな客はいないしな」

「いいなぁ私もまた行ってみたい」
 うっかり口を滑らせた。

「じゃあ、今晩行こう。お弁当の礼にご馳走するよ」

 ――えっ?

「あ、あはは。乃愛を置いては行けないわ。この前行ったばかりだし」

「そっか……。そうだよな」
 
 そうよ。私たちは恋人でも夫婦でもないんだもの。

 視線を重箱に落とす。
 もっと毎日でも作ってあげたい。だけどそれはもう、私の役目ではないのよね。

 でも、その代わり。
「今度、乃愛も一緒に。公園でお弁当でも食べましょうか」

 啓介さんは弾けたような笑顔を見せる。

「ああ、そうだな。乃愛も一緒に」

 啓介さんがここを離れる最終日にでも誘おう。
 最終日ならいいわよね?と、自分に言い訳をした。


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