天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う

 ***


 鏡を覗き込み、目もとをチェックする。
 今朝起き抜けの顔は、瞼が腫れていてひどいものだった。
 十分に冷やしたおかげでなんとか気にならない程度には治っている。これならば涙を疑われないはず。


『島津先生が宿泊するホテルに突撃しようかな』

 脳裏に浮かんだ真知子先生の期待に満ちた顔に、ズンと胸が沈む。

 昨日、ひよこ園で真知子先生と会い少し話をした。

『冗談じゃなくて、本気で子どもが欲しいなって思うんですよ』

『そうですか』

 真顔で彼女が言った。

『莉子さん、正直に言ってください。私が島津先生を誘っても構いませんか?』

 どうして私に否と言えるだろう。言う資格もない。

『私のことなら気にしないでください。私たちはもう夫婦じゃありませんから』

 自分に言い聞かせるように言った。

 夕べ、久しぶりに枕を涙で濡らした。
 啓介さんへのくすぶる未練をすべて流してしまおうと、我慢をせずに泣いたのだ。

 だからもう大丈夫――。

「ママー」

「はいはい、どうしたの?」

 乃愛は水族館で啓介さんに買ってもらったゴマフアザラシの赤ちゃんのぬいぐるみが大のお気に入りだ。今もぬいぐるみを抱えてなにかを訴えようと私を見上げている。

「おちゃかな、いく?」

「お魚?」

 うんうんと乃愛は何度もうなずく。

「パパ。おちゃかな」

 昨日、ひよこ園に乃愛を迎えに行くと、廊下のガラス越しに啓介さんの姿が見えた。

 啓介さんは乃愛を抱いていて、ふたりが楽しそうに笑い合っていた。

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