復讐の果て ~エリート外科医は最愛の元妻と娘をあきらめない~
 グレーのリボンタイのブラウスに黒のタイトなスカート。長い髪は後ろでひとつにまとめ、化粧はしっかりとして、大人の女性を演出できているはず。

 ひとつ大きく息を吸い、開いた扉の中へ入る。

 明るいロビーを進むと大勢の患者が待つ外来の受付があるが、私が進むのはそちらではなく、左の廊下。進んで間もなくまた右へ曲がりstaff onlyとプレートのある扉を開けて階段を登る。

 ここから先は患者はいない。登り切った二階の廊下を右に進む。その先、突き当たりの部屋。理事長室と掲げられたプレートを確認する。

 七ヶ月前と変わっていないことに安堵の溜め息をつき、扉をノックした。

「はい」

 くぐもった声は彼の声に間違いない。

 島津啓介。政略結婚した私の夫で、私の実家、山上家が代々受け継いできたこの病院を乗っ取り、浮気を重ね、私を絶望の淵に追いやった憎い人。

 扉を開けると彼はいた。

 すらりとした美貌の女性秘書が、デスクに座っている彼に寄り添うようにして、隣に立っている。

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