天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
『寂しいねぇ。啓介さんは? ――またひとりなんでしょ。しょうがないよねー愛のない政略結婚だもん』

 誰かは特定できない女性のくぐもった囁き声と笑い声がして電話が切れる。

 この手の電話は結婚して間もなく始まった。

 最初は無言。それから少しずつ声が聞こえるようになった。

 明らかな嫌がらせだ。

 啓介さんはモテるに違いないから、嫌がらせのひとつやふたつ仕方ないとあきらめているが、どうしてうちの電話番号を知っているのか。実家ならいざ知らず結婚して購入したマンションの電話番号なんてごく一部の人しか知らないはずなのに。

 この件を、啓介さんには言っていない。

 言いたくなかった。いつも忙しくて、家でゆっくりできる時間は少ない彼に、余計な心配をかけたくないし、不愉快な思いはしてほしくない。

 不安はないわけじゃいけれど、これくらい嫌がらせではなくただのイタズラだと思うようにしている。

 別にどうということはないわ、と留守番電話の録音を消す。

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