天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 私は啓介さんに恋をして、暗い海の中で溺れてしまったのかもしれないな。

 這い上がった先は、父のいない冷えた現実……。


 人がいなくなった祭壇の前に立ち、父の写真を見上げた。

 父が私の結婚を急いだのも、余命幾ばくもないという事情があったからだった。

 啓介さんは知っていたらしい。

 お見合いの席に着く前に聞かされていたようだ。

『啓介くんがいるから、後の心配はないよ莉子。啓介くんと幸せにな』

 お父さん、私の結婚はお父さんを慰められた?

 少しくらいは親孝行になったのかな……。

 手を合わせ父の冥福を祈り、顔を上げると母と弟が隣にいた。

「僕が医者になれないばっかりに、心配かけて……ごめんお父さん」

 弟の健がポロポロと涙を流し、母が健の肩を抱き寄せる。

「健、いいのよ。病院は啓介さんっていう立派な跡継ぎができたから」

 言ったそばから母は溜め息をつく。

「それにしても啓介さんは、こんなときも手術だなんて、大変ね……」

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