天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 女性を見送り、弔問客の名簿に記された名前を確認した。

 鈴本小鶴。

 住所は港区で終わっている。芸能人みたいな名前だが本名だろうか。

 啓介さんに会いに来たのだろうか。

 なぜ父のお通夜を知っているの? 公表していないのに。

 喉が締め付けられるような感覚になり大きく息を吸うと、胸のあたりが苦しそうに震えた。

 脳裏に渦巻く疑念を払い、落ち着かなきゃと自分に言い聞かせる。

 考えるより、今はとにかく気持ちを沈めるのが先決だ。温かい飲み物でも飲もうと、ひとまず自販機の前に行きココアのボタンを押す。

 体が温まれば、心も少しくらいは落ち着くはず。

「姉ちゃん」

 振り返ると健が心配そうに眉尻を下げて私を見ていた。

 身長は私より高いのに心細そうで、こういうときはまだ子どもだなと思う。

 私がしっかりしないと。

「どうかした?」

「大丈夫か? 後ろ姿がすごく疲れて見えたから」

「気のせいだよ。でもちょっと疲れた。お葬式って大変だね。お母さんは?」

< 47 / 286 >

この作品をシェア

pagetop