天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
『いずれ認知だけはしてもらうつもりだけど、養育費はいらないわ。私お金には困っていないの。あの人、子どもは嫌いだけど、せめて認知くらいはね。やることやったんだから』

 彼女の不敵な笑いを思い出した途端、ぐらりと目眩がした。

 額に手をあててうつむくと、涙が込み上げてくる。

「姉ちゃん?」

「あ、ごめん。やっぱり疲れたみたい。ちょっとトイレに行ってくる」

 ここでは泣けない。

 もう少しがんばらなきゃ、お父さんをちゃんと送り出さないと。

 今はまだなにも考えなくていい。

 夜の九時を境に会場の扉は閉ざされ、弔問客の足も途絶えた。

 今夜は寝付けないかとあきらめていたけれど、献杯がてら少し口にしたお酒と身体の疲れが眠りへと誘ってくれた。ここ数日ほとんど眠れなかったのが功を奏したらしい。

 翌日の告別式に納骨と、息つく暇もなく時は過ぎた。

 墓地の近くの小料理屋で会食を済ませ、これで行事のすべてが終わる。親族を見送るととたんに肩の力が抜けた。

 ハァ、疲れた……。

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