天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 母は啓介さんを責めはしないけれど、もしかすると私が病院で耳にした評判と同じような噂話を聞いたのかもしれない。

『山上総合病院なんて、もう二度と見たくないわ』

 吐き捨てるようにそう言った。



 父の告別式から二週間後、軽井沢に来たとたん心が晴れた。

 憂鬱さからようやく解放された気分である。

 気持ちが落ちついたせいか悪阻も落ちいてきて、体調もいい。
 体重も少しずつ戻ってきている。


「莉子、それじゃ私は出かけるわね」
 別荘に来てから、母も明るい笑顔を見せるようになった。

「はーい。私もさっちゃんのところに行ってくる」

 もともと地元なだけに、友人がたくさんいる母は毎日が楽しそう。今日はドライフラワーの教室を開いている友達のところに行くようだ。

 長野に来て本当によかったと思っている。

 私は心安らかに出産の日を迎えたい。今はそれだけを考えている。

 仕事も見つけたのだ。

 長野にはリンゴ農家を継いだ従姉妹のさっちゃんがいて、仕事を手伝ってほしいと言ってくれた。

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