天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
『愛しの旦那様がお見えですよ』

「ええ? 啓介さんが来たの?」

 電話を代わりますと言われて、覚悟を決めた。

 そろそろ別居の話をしなきゃいけないと思っていた。このままでは啓介さんだって混乱するだろうし。

『莉子?』

「啓介さん? ごめんなさい」

『いや。それでどうしたんだ?』

 ずっと音信不通でいたわけじゃない。三日に一度は電話で話をしていた。

 私は啓介さんがいないときを見計らって実感からマンションに帰り、掃除を済ませて料理を冷蔵庫に入れたりしていた。

 母の付き添いでしばらく帰れないと伝えてからは、ハウスキーパーを頼みましょうかと、啓介さんに相談したりもした。

 啓介さんに了解してもらってそれきり二週間は帰っていない。

 それからは母が寝込んだのを理由にしていた。嘘ではなかったけれど、心が痛む。

 私が軽井沢にいるとは伝えていないままだ。

「どうしても母の実家で済ませたいことがあるの。それが終わるまで帰れないの」

『いつまでかかるんだ?』

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