天才脳外科医はママになった政略妻に２度目の愛を誓う

　医療ミスではなくても、亡くなった患者さんのご家族がやるせ無い怒りを病院にぶつけてくることがある。それとは逆に、患者さんからのお礼状や元気になってから送られてきた写真が父の書斎にはたくさんあって、心の葛藤は相殺されるのだ。

　母もその手の電話は、父には話さなかった。父が患者さんに対して誠実に向き合っていると知っているからだ。

　私も母と同じように、啓介さんに心配かけたくなかっただけなのに。

「病院を経営していると逆恨みとかもあるから」

「それも初めて聞く話だな」

　責めるような言い方なので、ちょっとムッとして答えた。

「わざわざ言う必要はないと思ったの。イタズラだと思っていたから」

　啓介さんは大きな溜め息をつく。

「無言電話が続いてから、その後は？」

「〝啓介さんと別れてください〟っていう電話がくるようになって、そのうちファックスに」

「それでも俺に言わなかったのはなぜだ？　すでにイタズラの域を越えているだろう」