天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
「啓介さんは毎日帰りが遅かったでしょう? 言おうにもそんな機会はなかったわ」

 赤字経営を立て直すために、彼は脳外科医としてだけでなく父と一緒に経営も携わるようになっていた。

 毎日忙しくて帰りは深夜続き。その状況でいつ言えるのか。むしろこっちが聞きたいくらいだ。

 身に覚えがあるのだろう「確かにな」と言って、彼は考え込む。

 そのとき、電話が鳴った。

「ああ、さっきの話なら莉子が切ってしまってね」

 院長がかけ直してきたようだ。

 彼は受話器を口もとから外すと私に向かって「どうするんだ?」と聞く。

「とりあえずお話しましょう」

 啓介さんはうなずいて、電話を切った。



「母乳なのか?」

「えっ、あ……はい」

 突然の問いかけに戸惑った。いきなりなにを言い出すんだろう。

「ノンカフェインのコーヒーでいいか?」

「はい」

 そうか、気にしてくれたのね。

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