天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 一番の理由は鈴本小鶴さんから聞いたからだけれど、最後の切り札である彼女を引き合いに出すのはまだ早い。この勢いで畳み込まれたら私は、どうしてらいいかわからないもの。

 彼女はさておき、とりあえず正直に思った通りを言うしかない。

「父の入院中、この病院に出入りして、私たちにはもう居場所がないと思ったの。父の側近だった部長たちも看護師もみんな辞めてしまったし」

「不満げな言い方だな」

 それはそうよ。あなたがクビにしたんだから。

「彼らがなぜ辞めたか、理由は知らないのか?」

 理由? あなたがクビにしたんじゃないの? 気に入らなくて。

 怪訝そうな私を呆れたように見つめた彼は、溜め息をついて「もういいよ」と左右に首を振る。

「相手の男に一度だけ会わせてほしい。それですべて終わりにしよう」

 苦渋の表情の顔を横に向けて彼は席を立つ。向けた背中が、心底うんざりしたと語っているようだった。

 もしかすると、私はとんでもない間違いをしているのだろうか。

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