天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
「だ、大丈夫よ、流樹。いざとなれば本当のことを言えばいいんだし。流樹は啓介さんと戦う必要ないもの」

 乃愛の父はあなただと正直に言えば、流樹に被害は及ばないはず。なんだったら親子鑑定でもなんでもすればいい。

 でも、流樹との浮気の疑惑は残る?

 そしてその場合、乃愛の親権を要求されるかもしれない。

 ああ、どうしよう。
 私がバカなことを考え付いたばっかりに……。


「あ、乃愛。いつの間にか起きたのか」

 乃愛は今なにが起きたのかもわからず、足をバタバタさせながら私をじっと見る。

「おいで、乃愛」

 流樹から乃愛を引き取り、ぎゅっと抱いた。

 なにがあっても、この温もりだけは絶対に手離せない。
 乃愛、ごめんね乃愛。バカな私を許して……。



 流樹に送ってもらい、家の前で別れた。

 上がってお茶でもと言ったけれど流樹は忙しいらしくそのまま帰った。

 二月の風は冷たい。天気はいいが、日差しの熱を寒さが上回る。

 クマさんのミミがついた乃愛のニット帽を目深に直す。

「さあ乃愛、お家に入ろうね」



 玄関を開けるとサトさんが出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ」

「ただいま」

 母は軽井沢にいて一緒には来ていないけれど、サトさんがいるからひとりじゃないのがせめてもの救いだ。

 サトさんには離婚するとだけ伝えて、細かい話はしていない。

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