妖の街で出会ったのは狐の少年でした

77話 独占欲

「そろそろ行きましょうか」
「そうだね」
私たちは鳥居をくぐり、石段を降りる。
「ロク、宿題って終わってるの?」
「まぁ、ほとんどは」
「すごいね、また見てもらえる?」
「溜まってるんですか?」
悪戯顔で聞いてくる。
「う、うん。
でも去年よりは溜まってないよ。」
「いいですよ。」
ロクはクスクスと笑い困ったような笑顔で
そう言った。
「ありがとう。」
踊り場まで降り、後半を降りようとしたが
滑って踏み外してしまった。
「!?」
「っ!」
ロクに腕を腕を掴まれて、
引っぱられる。
そのまま2人とも体制を崩し私はロクの足
の間に座るような形になった。
「・・・ロク」
「カズハ様!!気をつけてくださいよ!」
ロクに怒鳴られ、体がすくむ。
「ご、ごめんなさい」 
私はすぐに退こうとしたら、手首を掴まれ
阻止された。
「あの、ロク?」
ロクは何も言わない。
「ひゃ」
手を離したと思ったら、鎖骨あたりに手を
回し引き寄せた。
私は前を向いたまま聞く。
「ロク?」
「ごめんなさい・・・でも・・・今だけは、許してください」
消えるように呟いた。
言葉が紡がれるたびに耳にかかる吐息が
くすぐったい。
腕に力が入ったのか、少し痛い。
背中が暖かく感じる。
それくらい密着しているんだと思う。
誰もいないからいいものの、ものすごく恥ずかしい。言わずもがな私の顔は真っ赤だ。
しばらくしてスッとロクは腕を解き
立ち上がった。
私が呆然としていると、一段先に階段を降り
振りかえずに
「帰りましょうか」
と、私に言った。私も急いで立ち上がり後を追う。私たちは会話をすることなく宿に帰り、私の部屋の前で解散になった。
ワンピースのまま畳の上に寝転ぶ。 
途端にじわじわと込み上げてきて、顔が熱くなる。
(なんで、あんなことしたんだろう)
階段から落ちかけ肝を冷やしたが、私以上に
ロクは肝を冷やしただろう。
私が怪我をしたら、ロクは立場的に危ない。
だから怒鳴ったんだと思う。あんなに怒りを
露わにするロクは初めて見た。
特別なことを言われたわけじゃないのに、
鼓動がうるさいくらいはっきりと感じた。
もしかして・・・
いや、自惚れたら駄目だ、私。

「やってしまった」
自室に戻り頭を抱える。
(俺は、なんてことを)
階段から落ちかけたカズハ様の引き上げ、
落ちることを阻止した、まではよかった。
カズハ様が危なっかしくつい、怒鳴ってしまった。いくら感情が昂ったとはいえ、よくなかったと自己嫌悪。
問題はここからだ。華奢なカズハ様の背中を見て守らないといけないという使命感のような気持ちになり、あろうことが抱きしめてしまった。暖かい体温が心地よい。カズハ様の耳は真っ赤に染まっていた。
恥ずかしかったがもう少しだけという思いが勝り、離さなかった。
ーどこにもいかないでー
そう思った途端、腕に力が入る。
いわば独占欲。
使いが主に恋なんて甚だしい。
でも、今だけは
「ー許してくださいー」
誰かが来る足音がして残念に思いながらも
離れ、平然を装い宿へ帰ってきた。
翌日
カズハ様の宿題を見ている時もどこか上の空で
「大丈夫」
でも問題を出してもちゃんと正解を答えている。
「ちゃんと聞いてるから大丈夫」
と戯けて言った。
でも、俺と目を合わせてくれない。
何かと距離を取りたがる状況が冬休みが明けるまで続いた




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