妖の街で出会ったのは狐の少年でした

79話 それぞれ

俺は使い、ただそれだけ。
カズハ様の従者でしかない。
主を縛る存在になってはいけない、と
自分に言い聞かせる。
「カズハ様が不安にならないように、
最適解だと思ったのですが、ご迷惑でしたか?」
そうして俺はまた、困ったような笑みを
浮かべ主に嘘をつく。
これじゃ仮面をつけていた時と変わらない。
俺はなにも変わっていない。

ロクは私のこと好きなのかもしれない。
そして、私も。
脳裏をよぎったが頭を振り、思考を消す。
思い上がりも甚だしい。
ただでさえロクは使いとしていろいろ大変なんだ。
これ以上、ロクを縛ってはいけない。
私たちは主と従者、ただそれだけの関係なんだ。

((この気持ちは墓まで持って行こう))


「ロク、この問題の答えってこれであってる?」
「ええ、あっていますよ」
あれから仲直りしたのか2人は前と同じように話している。
(ただ・・・)
「なにかあったんですか?」
「うわっ!校長先生、脅かさないでください」
「これは、失敬。」
休憩時間、2人を教室の壁にもたれかけながら傍観していると校長先生が話しかけてきた。
「なにかって?」
「なんだか距離を感じるなと」
(やっぱり)
「そう見えますか?」
「ええ、壁を隔てているように」
「喧嘩っぽいことにはなっていて仲直りしたとは思うんですけど」
(なんか気になるんだよな)
「そうですか」
それだけ呟いて校長先生はどっか行ってしまった。
「・・ン、ジュン」
気がつくと遠くにいたカズハが目の前にいた
「・・・あ、なんだ、カズハ?」
「ぼーっとしてるからどうしたのかなって。
悩み?聞くけど」
「あー。大丈夫。」
(悩みの8割は2人のことだよ、
とは言えない。)
「あのさ、ずっと聞こうと思ってたんだけど
ジュンのやりたいことってなにかなって。
上の学校に行くってことはやりたいことが
あるんじゃないかなって」
「よく覚えてんな」
「まぁね」
「オレは、保護官になりたいって思ってる」
「保護官・・」
カズハはつぶやき考えるそぶりをした。
「え、なに。想像つかないって?」
オレは半分ふざけて自嘲する。
「え、あ、違うの。不安にさせたらごめん」
カズハは両手を振り否定した。
「別に」
「私、この街に来て1番仲がいいのはロクとジュンとナツキかなって思ってる
最年長組だからっていうのもあると思うんだけど。
ジュンがなりたいものを見つけたことが、自分のことのように嬉しくて。
応援させてよ。ジュンの夢」
「真っ向から言われるとちょっと照れるな。でもありがとう」

オレは冬休みはほとんど机に向かっていた。
図書館で参考書を借り、片っ端から問題を解き、解説を読み、
手当たり次第に知識を叩き込む。
このやり方が正しいのか正直わからない。
でも、なにもしないよりはずっとましだ
と思う。
生活習慣も見直し、頑張って早起きをして持久力を少しでも伸ばすため
ランニングを始めた。約三週間だかかなり体力がついた気がする。
正直、遊びたいと思った時はあるがなんとか耐えた。

(絶対に叶えてやる)

入学試験は2月の半ば、やれることは全力でやる

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