妖の街で出会ったのは狐の少年でした

95話 一波乱


「カズハ、ちょっといいか?ロクもいる?」
一つ解決したタイミングでミズキさんが入ってくる。
「よかった、ロクもいて。2人ともちょっときて」
驚くかと思ったがそんなことはなく、私たちはミズキさんについていく。
着いたのは大広間。初対面の方もいるから練れものの方なんだと思う。
ロクも呼ばれたということはそれぞれの使いもいるんだろうな。
「顧問弁護士のサラです。本日は生前ナグモさんが書かれた遺書の公開、遺産の相続の2点について私から話を進めさせていただきます。」
サラさんという方はそういい、紙を開き、遺書を読む。
まとめると、遺産の半分は宿の定期点検の費用、営繕の為に残しておくこと。
もう半分は街の活性化のために役場に返したとのこと。
そのお金の管理をミズキさんに頼むとのこと。
同時にミズキさんに私の跡を継いでもらう。
つまりミズキさんに経営者、この宿のトップに立ってほしいとのことだ。
大広間がどよめく中ミズキさんは立ち上がった
「ま、待ってください。そんな、急に言われても」
当たり前だ。私だってそんなことを言われたらミズキさんと
同じ態度を取るだろう。
「これは生前からナグモさんが考えておられたことです。
あなたを見込んでとのことです。」
確かにミズキさんはしっかりしている。
正直、ミズキさんがここで引き受けてくれた方がこちらとしてはありがたい。
断ればその後のトップの座を巡って戦争が起こることが容易に想像できる。
ミズキさんは手を握り、
「わかりました。引き受けさせていただきます」
と力強く言った。その手は震えていた。
それからはスムーズに終わり、解散となった。
私と、ロクはそれぞれ部屋に戻る。

俺が部屋に戻り、立ち尽くしているとノックされた。
「ミズキ様?」
何かを持っているミズキ様が立っていた。
「これ、サラさんから。ロクに渡してくれって」
小さめの箱だった
「ありがとうございます」
ミズキ様が去ってから再び無音になる。
テーブルの上に箱を置き、開くと
「お金と、手紙?」
手紙には
本当はセツナさんは羽織を私に預けてすぐに亡くなっているの。
言い出すことが出来なくてごめんね。今までのセツナさんのために私に預けてくれたお金は今後、自分のために使ってほしい。
「ナグモ様、ん?」
裏にも何か書いてあるようだ。
裏面を見てもなにが書いてあるかわからない。
「もしかして」
もう一回表に返して電気で透かしてみる。
私を信じてくれてありがとう
「ナグモ様、」
呟いた瞬間、涙が流れる。
手紙に皺がよることも気にせず胸に抱きしめて
声を押し殺し泣き崩れる。

人の死に関わったのは初めてではない。
泣いたって故人が戻ってくることは決して
ない。
なにも変わらない。泣くことなんて無駄なこと。
頭では分かってるのに、涙が止まらない。
ー体は正直ー
あの時、自分で言った言葉が自分に返ってくることなんてあるんだ。
住む場所をくれた。学校に通わせてくれた。誕生日を祝ってくれた。
私を生かしてくれた。沢山のものを、あなたからもらった。
私はあなたになにが出来ていましたか?
この問いに答えてくれる返事はない
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