妖の街で出会ったのは狐の少年でした

97話 狂う

私たちはあれから少しずつだが日常に戻り始める。
訂正、前とは少し違う日常に慣れ始めた頃。
ミズキさんは慣れないことばかり、それに加えて常連さんから
前経営者、ナグモさんとの比較する声が多々上がる。
経営者が変われば少なからず変わることは当たり前だ。
常連さんもそれはわかってくれているが、たまに茶化しにいらしてくださる
新規のお客様がいる。常連さんは庇護してくれるが
ミズキさんは気にしてしまっているらしい。
それに加えて、従業員が3割辞めて行ってしまったため、経営が傾き
つつある。主人について行った使いもいれば、それぞれ別の道を歩んで行った
主と使いもいる。もちろんこちらの仕事量も増えるわけで
「はぁー、疲れた。」
最近忙しさが増している。仕方ないけど。
「お疲れ様です、カズハ様」
「ありがとう、ロク」
実年齢を知ったときは他人行儀まがいになってしまったが今はそんなことなく
今まで通り。
「最近、ミズキさんに会ってないな」
「この前、ミズキさんとすれ違ったのですが少々
やつれたように見受けられます」
(ミズキさんは使いが代替わりしている。
代替わりして時間が初代の方を上回ったとしても、ミズキさんは今の使いの方と一線を引いているのかな。)
私はロクに視線を向ける。
(私も多分使いが変わったら時間が経ってもロクと比較してしまうのかな。)
「どうかしましたか?」
私に聞いてきたので咄嗟に首を振る。
「いや、なんでもないよ」
不意に扉がノックされる。
「アタシ、ミズキ。入っていいか」
「あ、はい」
扉を開けると、ミズキさんが立っていた。
少し、いや思ってたよりやつれている。
徹夜続きなのか隈が酷い。
「ごめん、遅くなって、これ給料」
「あ、ありがとうございます、あの、だ、」
「だ?」
「いえ、なんでもありません」
(大丈夫ですか、これを言ってなにか変わるわけじゃない。
窮地を奪還できるわけじゃない。口先だけの慰めを言ったら失礼だ)

問題が山積みなのにさらなる問題が。
「え、結婚、ですか?」
「う、うん。倅と結婚させたいって話が来てるんだ。もちろん嫌だったら言っていいんだよ。その時はアタシからお断りするから」
折角のご縁だし、でも。
俯く私を見てか
「やっぱりお断りの」
「いえ、その話、お受けします」
「カズハ、分かった。なら」
ミズキさんは私の気持ちに気付いていると思う。私はミズキさんの出した条件を飲み
部屋を後にした。
その日の夜。俺はカズハ様から結婚の話を聞いた。
「結婚、ですか?」
「うん、再来月のこの日私は結婚する。」
「そう、ですか。おめでとうございます」
「ありがとう」
それからはお互いこの話を口に出すことはなくあっという間に結婚前夜。
「俺の使いとしての仕事は今日で終わりです。カズハ様。今まで、ありがとうございました」
「うん。私も今日までありがとう。
ロクが使いでよかった。」

部屋で1人でに呟く。
「大好きでしたよ、カズハ様」
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