恋桜~あやかしの闇に囚われて~
 ギャーギャーッと夜の静寂に鳥のけたたましい鳴き声が響いて、和真はびくっと震えた。突然、実感が湧いてきた。

 これはまずい状況だ。和真もミツルも成人した大人の男だ。和真は独り暮らしだし、ミツルも女と別れたばかりだと言っていた。数日連絡が取れないくらいで、家族や友人が捜索してくれるとも思えない。このまま遭難して命を落とすようなことになってもおかしくはない。

「……おい、ミツル、食べ物や飲み物持ってるか?」

「ああ、あるよ。外で食べることになるかもと思って、ボストンバッグに適当に突っこんできた」

「よかった。飢え死にすることはないか……」

「何言ってんだよ、和真。車もスマホもちょっと調子悪いだけだろ。焦ってもしゃーない。大丈夫大丈夫」

 ミツルが明るい口調で言った。このときほどミツルの能天気な性格に感謝したことはない。
 和真は深く息を吐いて、ようやく唇の端を持ちあげて笑顔の形を作った。

「じゃあ、とりあえず夕飯食べて、今夜は車の中で寝るか」

「おお。せっかくだから、丘の上で花見にしようぜ」
 ミツルが笑って荷物の中から出したのは、ビールや酎ハイの缶、スルメやナッツ類といった乾き物と、袋菓子やチョコレート。つまるところ、酒の肴ばかりだった。





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