恋桜~あやかしの闇に囚われて~
「ぬれくび」

「その姫の祟りを恐れて祀ったものなんだ。春の宵になると濡れ髪の女が村を徘徊して、男たちを縊り殺すんだって。女の恨みは怖いぞ、ミツル」

「姫って美人? 和風美女なら乗っかられたいなー」

「アホか」

 そう言えば、電波を探して歩きまわっていたときに、この丘のふもとに壊れた小さな祠のようなものがあった気が……。ミツルは一瞬不快な感覚に襲われたが、ジンの瓶をあおると、嫌な予感はすぐに記憶の彼方に押し流された。





「……おい、ミツル。……ミツル! そろそろ車に戻るぞ」

「んん……?」

 ぼんやりと和真の声がする。いつの間にかうつらうつらとしていたらしい。

「こんなところで寝たら、風邪引くぞ。危険な動物もいるかもしれない」

「きけんってなんらよぉ。ははは、和真おかしいー。日本にそんなあぶないとこないってぇ」

 呂律の回らない口で答えて起きあがろうとすると、頭の芯がグルグル回転して倒れてしまった。

「だめら、おきらんねえ。このままねるー」

「大丈夫かよ」

 和真の気配がいったん消え、しばらくしてから戻ってくると軽い毛布がかけられた。
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