恋桜~あやかしの闇に囚われて~
 長い真っ黒な髪がぐっしょりと濡れて、青白い顔に貼りついている。そのせいで顔がよく見えない。白っぽい着物を着ていて、まるで定番の怪談のようだ。こんな幽霊らしい幽霊が出てくるなんて、これはやっぱり夢だったかと、ミツルは心の中で笑って息苦しさをごまかした。



 はらり、はらりと。



 女の後ろで、白い桜の花びらが舞い散っている。
 人工の明かりが一つも存在しないはるか昔のままの闇を、仄かに光らせて。



 ぽとり、ぽとり。

 ぽとり、ぽとりと。



 妙にリアルな生温かい水滴が、ミツルの額にしたたり落ちた。

 苦しい。

 胸が圧迫されて……首を締められて。
 喉がヒューヒューと鳴った。目の裏がじわじわと赤くなる。



 はらり、はらり。

 ぽとり、ぽとり。



 それでもまだ、ミツルはそれが夢だと思っていた。
 直前まで和真から聞いていた数百年前の言い伝えと、深夜の廃村という非日常的な環境、そして酩酊による錯覚が見せる、やけに現実感のある悪夢だと。

「ぐ……ぅぅ……」

 だが、ふいにミツルは悟った。
 これはおかしい。『マジでヤバい』のではないか。
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