恋桜~あやかしの闇に囚われて~
……いや、そんなわけがない、こんな気味の悪い存在は知らない。ミツルは懸命に、自分の内側に湧いた不可思議な既視感を打ち消す。
ぽとり、ぽとり。
ぽとり、ぽとりと。
それでも、女からしたたる水滴に、ゆっくりと記憶が浸食されていく。
……そうだ、やっぱり自分はこの女を『覚えて』いる。何度もこうして体を重ねたじゃないか。雅な香を焚きしめた着物に、滑らかな肌。
「ちが……う」
この記憶はなんだ? なんでこんなことを考えている? 俺じゃない。これは俺の記憶じゃない。
「や……めろ……」
やめてくれ。
「……頼む……」
もう、どこにもいないはずの女。
燃え盛る城を家臣とともに逃げ出し、この村へと落ち延びた。しかし、供の者はみな道中で命を落とし、山あいの集落に辿りついたのは姫君ただひとりだった。
村で一番の猟の腕を持っていた男は、仕事帰りに見つけたその女を村外れの小屋に囲い、密かに自分のものにした。誠実な態度と甘い言葉で女を騙し、やがて彼女が携えていた城主の秘宝を奪うと、首を絞め井戸に投げ捨てた。
ぽとり、ぽとり。
ぽとり、ぽとりと。
それでも、女からしたたる水滴に、ゆっくりと記憶が浸食されていく。
……そうだ、やっぱり自分はこの女を『覚えて』いる。何度もこうして体を重ねたじゃないか。雅な香を焚きしめた着物に、滑らかな肌。
「ちが……う」
この記憶はなんだ? なんでこんなことを考えている? 俺じゃない。これは俺の記憶じゃない。
「や……めろ……」
やめてくれ。
「……頼む……」
もう、どこにもいないはずの女。
燃え盛る城を家臣とともに逃げ出し、この村へと落ち延びた。しかし、供の者はみな道中で命を落とし、山あいの集落に辿りついたのは姫君ただひとりだった。
村で一番の猟の腕を持っていた男は、仕事帰りに見つけたその女を村外れの小屋に囲い、密かに自分のものにした。誠実な態度と甘い言葉で女を騙し、やがて彼女が携えていた城主の秘宝を奪うと、首を絞め井戸に投げ捨てた。