恋桜~あやかしの闇に囚われて~
 この世のものではありえないほど絶え間なく、桜吹雪が散りつづける。もう二度と終わることのない春の宵。

 桜の下の闇は深く、生温く、母胎のように湿っていた。





  †  †  †





 和真が目覚めたとき、既に日は高く、早春だというのに車内には熱気がこもっていた。

「あー、腰が痛い」

 車を降りて伸びをすると、体がギシギシと軋みを上げた。ふと、まだ姿のないミツルのことが気になって、小丘を見上げる。ミツルはまだ桜の下で寝こけているのだろうか。

「……は!?」

 おかしい。和真は目を瞬かせた。
 目の錯覚、か?

「…………」

 違う。目の錯覚ではない。
 驚きのあまり、声が出ない。思考もうまく回らない。



 ざわり、ざわり。

 ざわり、ざわりと。



 生温い風に揺れているのは、朽ち果てた古木の骸のような枝幹だった。
 満開の桜花はない。それどころか、生きた樹木の気配もない。ただ黒々と朽ちて折れた枝が、ぶらぶらと生気なく揺れていた。

「なんだよ、これ……」
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