あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる

車はしばらく街中を走ると、一軒のお店の前で止まった。ガラスのショーウィンドウには、男女のマネキンが鮮やかな色の服をまとっている。
ここは、ブティックのようだ。
こじんまりとした店だが、お洒落な感じで高級そうな雰囲気だ。

神宮寺は黙って車を降りてしまったので、私も慌てて後を追いかけた。
お店の床もガラス張りになっていて、その下にはキラキラと輝くスワロフスキーのようなビーズが引き詰められている。この上に立って良いのかと思ってしまうほどだ。

お店の中へと進むと、とても美しい女性が現れて、神宮寺に話し掛けてきた。
年齢は40代くらいだろうか、落ち着きがあり女優のような雰囲気がある。


「いらっしゃいませ。久しぶりですね…今日はどのような服をお探しですか。」

「今日は、俺じゃないんだ…俺の秘書の、伊織を頼みたい…休日の少しカジュアルな服を選んでくれないか。」


なんと、このお店に来た理由は私だったようだ。
私はどうしたら良いのか固まっていると、お店の美しい女性は私を見て微笑んだ。


「伊織さん、…あなたはとても可愛らしい方ね…お似合いの服を用意するので、こちらに来て…。」


その女性が用意してくれたのは、ニットのワンピースだ。
とても肌触りが良く、上品なデザインだ。しかし、とても高そうでもある。

私は試着するように言われ、試着室でワンピースに着替えてみた。
やはり、今まで着たことが無いような柔らかい感触に、とても軽く温かい。
白に近いベージュが優しい雰囲気だ。


「伊織様、いかがでしょうか?」


女性が声を掛けて、静かに試着室のドアを開けた。
その後ろには、神宮寺も立っている。

その女性は嬉しそうな笑顔を向けてくれた。


「私の思った通りだわ…とてもお似合いよ!」


すると神宮寺も横から声を出した。


「伊織、その服にしろ…そのまま着て出かけるぞ…」


似合うと言ってくれるのは嬉しいが、とても高価な服のようで、私には買えそうもない。


「…社長、このような高価な服は、私には無理です。」


神宮寺はクスッと笑う。


「お前にプレゼントだ、俺に恥をかかせるなと言っただろ。」


結局、神宮寺はこの服のほかにも、服に合う靴やバッグまで全てそろえてくれたのだ。

これは、小説やアニメに登場する女子の憧れの場面だ。
しかし、神宮寺にしてもらうなんて、複雑な心境になる。

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