あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる

今思えば、お店の従業員が祥子の父親に挨拶をしていたことを思いだした。
店長と思われる男性も、祥子の父親に丁寧に挨拶していた。

昨日のことをいろいろと考えていると、須藤が私の方を見た。


「もうすぐ祥子の会社に着くが…。伊織さん、一緒に来れば何を言われるか分からないよ、それでも一緒に来るかな?」

「はい、もちろんです。私も連れて行ってください。何を言われても…私は大丈夫です。」


須藤の運転する車は、ガラス張りの大きなビルの駐車場へと向かった。
少し黒味がかったガラスが塀のようになっている。
とてもお洒落な外観のビルだ。
近づくと、ビルの中が透けて見えた。オフィスの中が外から見えるようになっていた。

駐車場に車を置いた私達は、1階にある総合受付と書いてあるカウンターへと向かった。


総合カウンターには、女性が一人座っている。
須藤はその女性に向かって話し始めた。


「こんにちは、お約束は無いのですが、進藤祥子社長にお会いしたくて参りました。」


すると、その女性は、にこやかな笑顔で厳しい言葉を言った。


「社長の進藤は忙しいため、お約束のない方とお会いすることはございません。残念ですがお引き取りください。」


須藤はその言葉を聞くと、いきなり表情を一変させた。
先程までの営業スマイルから苛立ちの表情になっている。
そして、受付の女性を威圧するように、カウンターを掌で叩いたのだ。

こんな須藤の姿を見たのは初めてだ。私は唾をゴクリと飲み込み、須藤の後ろから様子を見ていた。


「…ネクストアイランドの社長秘書が来ていると伝えてくれ、言えばわかるはずだ。」


総合受付の女性は、須藤の勢いに圧倒されたのか、渋々とどこかへ電話を掛けた。
少しして電話が終わると、その女性は私達に声を掛けた。


「お待たせいたしました。進藤はお会いすると申しております。エレベーターで最上階に向かってください。エレベーターを降りて、真正面の突き当りが社長室です。」


< 45 / 119 >

この作品をシェア

pagetop