貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 譲は得意そうな笑みを浮かべた。

「一晩でも、少しはわかるものだろ?」
「……わかったから離してよ」
「じゃあ俺の提案に乗るって約束しろ」
「何も聞いてないのに、乗れるわけがないでしょ」
「俺とセフレにならないか?」
「嫌」
「早っ」
「当たり前でしょ。私はそんな安い女じゃないの。馬鹿にしないで」
「でも気持ち良かったって言ってたよな」

 真梨子は口籠る。正直、心は揺れ動いていた。

 今まで体が満たされたことなんてなかった。こんなに気持ち良かったのは初めてだった。でもそれとこれとでは話が違う。

「それにセフレなら、私じゃなくていいじゃない。さっきVIPルームでお尻を触ってた女の子にお願いすれば?」
「まぁそうなんだけど……俺もいろいろあるんだよ。それにああいう子たちはちょっと面倒なんだ」
「面倒?」

 問い詰めようとしたのに、キスをされてそれも叶わない。

「気にすんな。大したことじゃない。それより……真梨子の中が良すぎて、今すぐもう一回してもいいくらいなんだけどな」

 その言葉に体が疼き、真梨子は恥ずかしくなる。たった一度の関係なのに、体の奥深くに彼の跡を刻み込まれたような感覚に陥る。真梨子は唇を噛み締め、顔を歪ませた。

「……私は今まで品行方正に生きてきたのよ。こういう順番を飛ばしたような関係はしたことがないの。だからはっきり言って……戸惑ってる」
「何に戸惑うんだ?」
「性欲を優先する関係って正しいの?」

 元彼は、心は満たされても体は満たされなかった。もし彼のセフレになったら、体は満たされても心は満たされなくなりそうで怖かった。
< 10 / 144 >

この作品をシェア

pagetop