貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
二葉は唇を噛み締める。何も反論が出来ないのね。本当に弱い子。
「……確かにそうかもしれません。私はあなたの代わりかもしれない」
「そうね」
「……彼と出会った時に、私は彼に自分の気持ちを大事にして、望む未来を選んでって言ったんです。その気持ちは今も変わらない。もし匠さんがあなたを選べば私は身を引きます。でもそうじゃないなら私は彼を守りたい。教えてください。あなたにとって匠さんはどういう存在なんですか?」
二葉の言葉を聞いて、真梨子は初めて動揺した。こんなに素直な言葉を聞くとは思わなかった。それを悟られないよう、わざと遠くを見つめた。
「私を愛してくる人。愛をくれる人。恋い焦がれる目も、悲しそうな顔も、私を満足させてくれるの」
でもそれは高校時代の匠の姿。再会した後は……? そういえば、ちゃんと顔を見ていないかもしれない。匠はどういう目で私を見てた? どうして思い出せないの?
「……それって自分が満足するためだけの人間ってこと?」
痛いところを突かれ、真梨子は一瞬怯む。
「でも匠だってそれを望むんじゃないかしら? 私の前から姿を消したのだってそういうことでしょ?」
「……もし彼がそれを望まないと言ったら?」
「……あなた、もしかして自分が愛されてると思ってる?」
「……思ってます。彼が何度も愛してると言ってくれた言葉を信じるだけです」
真梨子は鼻で笑うが、ふと先ほどの二葉の言葉が蘇る。
『自分の気持ちを大事にして、望む未来を選んで』
その後に私に別れを告げたということは、あの時から匠にとって私はいらない存在だったということ……?
頭が混乱する。そんなことはない……認めないんだから……!
視界が定まらず、呼吸もおかしくなる。必死に言葉を絞り出すが、心拍数が上がり、息が苦しくて仕方なかった。
「はっ! お子ちゃまの恋愛ね。馬鹿馬鹿しい。いつまで夢見てるわけ?」
そう言い放った瞬間、二葉の前に誰かが立ちはだかる。
「夢なんかじゃない。俺の本心だよ」
驚いて顔を上げると、息を切らした匠が立っていた。六年ぶりに会う匠は、譲の面影はなく、もう知らない人だった。