貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 匠は真梨子を睨みつける。その目からは憎悪しか感じられなかった。

 もしかして、あの頃もそういう目で私を見てた? どうして思い出せないんだろう……。そしてハッとする。違う、わたしが見ようとしなかったんだ。真実を知りたくなくて、目を逸らしたのね……。

 それから匠は二葉の前に膝をつき、頭をそっと撫でる。ポロポロと泣き出した二葉を優しく抱きしめた。

「巻き込んでごめんね……」

 二葉は頭を何度も横に振るが、匠の胸に顔を埋めたまま上げることが出来ないでいた。

 匠は二葉を抱きしめたまま、真梨子を冷たい目で見る。

「……どういうことですか?」
「あなたが電話に出ないからじゃない」
「そもそも、どうしてあなたが俺の番号を知ってるかも不思議だった」
「私にはあなた以外にも連絡を取り合ってる教え子がいるのよ」
「だとしても、あなたとはもう会わないと言ったはずです」
「嘘よ。本当は会いたかったくせに。別れる時に強がってるのがわかった。だから少し時間を置こうと思ったの」

 強がったのは真梨子の方だった。お願いだから、もうこれ以上私をズタズタにしないで……。
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