貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜

「きっと真梨子のことだから、自分から別れようと言った手前、俺には連絡出来なかったんだろ? 本当に真面目なところは変わらないな」

 譲がからかうように笑う。この笑顔を見ると、不思議と安心出来た。

 私は誰かの笑顔を見て暮らしたかったのに、いつの間にか晃の笑顔を思い出せなくなっている。

「……それだけじゃない……」

 真梨子は譲の体を押し退け、彼に背を向ける。

「あなたにはどうしたって会えなかった……」
「真梨子?」
「……十二年前、私は怖くなって逃げ出したの……」
「……俺に本気になりそうで怖かった?」

 真梨子がハッとする。それと同時に背後から抱きしめられ、真梨子は息が出来なくなった。

「……やめて。何もしないって言ったじゃない……」

 本気になりそうで怖いのは今も同じなの……。
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