貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜

 すると二人の前にカクテルが運ばれてくる。鮮やかな赤紫のものと、オレンジ色のもの。

「君はカシスソーダ、俺はスクリュードライバー」
「……どうして?」

 真梨子が不思議そうに尋ねると、男は微笑み、真梨子の長い髪をそっと撫でる。

「カクテル言葉って知ってる? 花言葉みたいに、カクテルにもそれぞれ意味があるんだ」
「……カシスソーダの意味は?」
「『あなたは魅力的』。そしてスクリュードライバーは『あなたに心を奪われた』」
「何それ……」

 それ以上の言葉は見当たらなかった。馬鹿みたいって思うのに、どこかで嬉しいと感じている自分もいた。

「でも面白いかも。まだ他にもあるの?」
「まぁね。でも今はこれだけで十分」
「……ケチね」
「へぇ……そんな可愛い言葉も使うんだ。ずっと棘のある言葉しか聞いてなかったから新鮮だな」
「……意味がわからないわ」

 カクテルを口にすると、その美味しさに口元が緩む。さっきまではあんなに不味いお酒を飲んでいたのに、今は一口飲んだだけでこんなにも幸せな気分になれる。

「なんて贅沢なのかしら。こんなの初めて」
「もしかして、喜んでる?」
「……あなたに連れて来られた場所っていうのが癪だけどね。まぁ確かに喜んでるわ」
「それは良かった」

 男の嬉しそうな顔を見て、真梨子もついつられて笑ってしまった。
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