貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 話していくうちに、この男が悪い人ではないように思えてくる。しかしその発想を頭から追い出した。

 元彼だってそうだったじゃない。見た目はチャラいけど、いい人っぽいし……そう思って付き合ったのが運の尽きだった。

「それにしても、元彼がいるかもしれない店によく行けたな。感心するよ」
「……友達があの店が好きで……って、あっ!」

 その話の途中で茜のことを思い出して、慌ててスマホを取り出す。何度も着信が入っていたが、諦めた様子の茜からメッセージが届いていた。

『真梨子が見つからないから先に帰るね。無事なら連絡して』

 真梨子は慌ててメールを打つ。

『ごめん! 私も帰るから大丈夫』
『了解』

 ホッとしたようにスマホをしまうと、男はその様子をじっと見ていた。

「ふーん……真梨子って言うんだ」

 文面を見られていたことに気付き、真梨子は気まずそうにそっぽを向く。

「そうよ。だから何?」
「いや、なんかピッタリな名前だなと思って」
「はぁ⁈」

 男は真梨子の腰に手を回し体を寄せると、彼女の肩に顎を乗せた。

「……もう帰るのか?」

 男の息が耳に吹きかかり、耳たぶにキスをされると、真梨子の口から小さく声が漏れる。

「言ったでしょ? 私は初めて会った男となんてヤらないって」
「でもいい男が来たらラッキーなんだろ?」
「……もしかして自分がいい男だと思ってる?」
「もちろん。君がそう思わないなら、相当男を見る目がないと思うね。あんなくだらない噂話を流すような元彼よりは、ずっと良い男だと思うけど」
「……私ってつくづく男運がないのね……」

 男は大きなため息をついた真梨子の手を取り、手の甲に口付ける。

「こういう考え方はどうだ? 今まで良いと思った男がダメだったんだから、敢えてダメだと思う男に飛び込んでみる」
「……それって完全にダメなやつでしょ?」
「でも意外と見落としがあるかも知れないぞ。それに……」
「それに?」

 男は真梨子の唇を奪う。息も出来ないくらい激しく、ねっとりと絡み合うような熱いキス。真梨子は抵抗するのを忘れてしまうほど酔いしれる。

 最初に嗅いだ時からまた変化をした彼の香りに包まれ、頭の芯から蕩けそうだった。

 唇が離れるが、男は舌先で真梨子の唇をなぞっていく。

「元彼よりずっと君を歓ばせる自信がある」

 再び唇を塞がれる。真梨子の手がゆっくりと男の腕に触れ、そのまま男の首に腕を回していた。
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