貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 譲は真梨子の背中を優しく撫でる。

「匠の彼女の二葉ちゃん、本当に面白い子だな。普通知らない人間相手にあんなこと言えないよ」
「えぇ……本当にそうよね……」

 あの二人は、どうして私なんかのためにここまでしてくれるのかしら……。

「で、二人の言葉は真梨子にどんなふうに届いた?」
「……不思議よね。今まで誰も私の気持ちなんてわからないって思ってたの。でもあの子の言葉は私が言いたいことを代弁してくれてた……。家族だからこそ言えない言葉があって、晃も家族だからこそ戯言(たわごと)としか捉えてくれなかった。だけど第三者が言うと、それは私だけの意見ではないことがようやく伝わった……」

 譲の腕の中から起き上がろうとしたが、彼に阻まれてしまう。

「……これからどうするんだ?」
「まぁ……そうね……とりあえず家に帰りたくないから、どこかホテルでも探すわ。次の夫の休みの日にきちんと話し合って、決着をつけるつもりよ」
「決着?」
「そう。今まで何度も訴えてきたのに、あの人は聞いてくれなかった。でもどうしてかしらね……あの人にようやく伝わったら、逆に戻る気にはならなくなったの……」

 きっと私の気持ちを理解してほしかったのね。目標が達成された今、真梨子は力が抜けていく。二葉ちゃんのお陰で、ようやく負の呪縛から解き放たれたようだわ。
< 75 / 144 >

この作品をシェア

pagetop