西園寺先生は紡木さんに触れたい
「ひどいな〜…。まあ、いいや。それより、最近ずっと面接の練習してたんでしょ?どう?」
西園寺の何気に質問に紡木は言葉を詰まらせた。
正直上手くいってはなかった。
いや、先生方には上出来だとよく言われるけど、
「本当に、これでいいのかなって…。」
ぽつりと無意識のうちに溢れた言葉に、紡木自身が驚いて、「いや、違うんです、上手くいってます…。」と訂正した。
そんな紡木の様子に西園寺は、「本当のこと言ってごらん。」と優しい声でそう言った。
紡木は少し躊躇ってから、諦めたようにゆっくりと口を開いた。
「なんか、分からなくなってしまったんです。
私は将来やりたいこととか就きたい職業とかが思い浮かばないし、母を楽にしたいからっていう理由で就職する道を選んだんですけど…
今更、本当にこれでいいのかわからなくなってしまって。」
今にも消えてしまいそうな声でそう呟く紡木に、西園寺は「うんうん。」と相槌を返した。
「母も祖母も人を救いたくて看護師になったらしいんですけど、私にはそういうのもなくて…血を見るのも苦手だし、そもそも男性の患者さんには触れないし…このままでいいんでしょうか。」
「…もし将来やりたいことが決まっていなくても、大学に通いながらそれを探すってこともできるし、今就職してやりたいことが見つかったら大学に行くことだってできるし、不安にならなくてもいいんじゃないかな?
僕も、結構ギリギリで進路決まったしね。」
優しく諭すようなその声に、焦りを感じていた紡木の心はみるみるうちに落ち着きを取り戻していた。