西園寺先生は紡木さんに触れたい
「兄貴…。」
ぐちゃぐちゃになった兄貴の顔を、蓮は撫でた。
この家で唯一、自分に構ってくれた兄…
生まれた時から陸は跡継ぎ候補として父母の関心を得て、蓮は平凡な息子として空気のような扱いを受けて来た。
蓮は寂しかったが、そういうものかと受け入れていたし、兄が時々構ってくれるから寂しくはなかった。
それは兄が荒れてからも頻度こそは落ちたけど変わらなかった。
『車に轢かれたんだってね。』
そう口々に言う弔問客に、連は疑問を覚えながらも幼いながらに、今度の事故も今までと同じように父がお金を積んでもみ消したんだろうと
「お前はなんでこんなことも出来ない!?」
陸が亡くなってから数週間も経たないうちに、父のスパルタ教育が始まった。
陸が亡くなる前には全く自分に興味を示さなかった父が、急に自分を見てくれるようになったことに嬉しいような、悲しいような、複雑な気持ちを抱えながらも蓮は過ごしていた。
「蓮は偉いねえ。本当に偉いよ。陸とは違って偉いよ。」
「蓮は絶対に道を踏み外しちゃダメよ。絶対に…。」
そう言って彼の頭を撫でる母に、蓮は違和感を感じながらも従うしかなかった。
毎日、毎日勉強をした。
父が希望する中学に受験するために。
高いお金を払って塾にも通った。
父と母に向けられた関心を
もう二度と逃さないために。