西園寺先生は紡木さんに触れたい
そして来る中学受験の日。
正装に身を包んだ蓮と、堂々とした面持ちの父、緊張している母と3人で面接に挑んだ。
メガネをかけた、優しい顔立ちの教師が、席に着くなり口を開いた。
「ではまず、霧島蓮くんへの質問から始めます。緊張せずに、落ち着いて答えてくださいね。」
そう言って柔らかく笑う先生に、蓮の緊張もほぐれた。
「まず筆記試験はいかがでしたか?」
「はい。難しい問題もありましたが、一生懸命時間いっぱい解きました。」
父と母と練習した通りにハキハキと答える蓮に、父も満足げに頷いた。
「いいですね。それでは、蓮さんの長所と短所についてお聞かせください。」
予想通りの質問に、蓮はこれまた難なく答えを返すことができた。
母もその様子に漸くホッと安堵したような表情を浮かべた。
「それでは、蓮さんの家族構成を教えていただけますか。」
蓮はその質問に、少し言葉を詰まらせた。
「あ、えっと…母と、父と、僕…と、兄の、4人家族です…。」
蓮がそう言った途端、母は驚きのあまり口に手を当てて、父はびくりと肩を震わせた後、ぎろりと蓮を睨んだ。
父の中で、兄という存在はもうなかったことにされているということを蓮はよく分かっていた。