西園寺先生は紡木さんに触れたい
「あれ?ええと…こちらには蓮さんとご両親の3人家族と書かれていますが…。」
そう戸惑いながらチラリと両親を見る先生に、蓮ははっきりと「4人です。」と答えた。
「兄は、バイクの事故で亡くなりました。でも、僕たち家族は4人です。」
そう言い切る蓮に、先生は「そうなんですね。お兄さんのことが大好きなのですね。」と優しく笑った。
その反応に母は胸を撫で下ろし、父もふう、とため息をついた。
「では、尊敬している人はいますか?」
「僕の尊敬している人は…兄貴です。」
蓮がそう言うと父は思わず立ち上がりそうになった。
それもそのはず。練習では散々「父です。」と言うように指導して来たからだ。
そのまま飛び掛かってやろうかと思ったが、すんでのところで思い直した。
「兄貴は…すごく不良で、高校生なのにタバコも吸ってたし、お酒も飲んでたし、悪い友達とバイクに乗ってたりしたけど、僕にはすごく優しかったんです。
お父さんとお母さんに放っておかれてる僕に、こっそりおやつをくれたり、時々一緒に遊んでくれたり、勉強も教えてくれたり…
僕が怪我をしても母さんは気づかなかったのに、兄貴だけはすぐに気がついて絆創膏貼ってくれて、痛くないか?って心配してくれて…。」
そこまで言うと父は今度こそ立ち上がり、「蓮!ふざけるな!面接を台無しにする気か!」と、連に殴りかかろうとした。
そんな父を蓮ははじめてキッと睨んだ。