西園寺先生は紡木さんに触れたい
「…どこ行ってたの。」
「うわっ…っと…。起きてたの、お母さん。」
紡木がそろりそろりと忍び足で家の中へと入ると、母がリビングのソファに座っていた。その顔は静かに怒りを帯びていた。
「どこ行ってたの。」
「えっ…いや、その…友達の家に…。」
「なんで連絡しなかったの。」
その母の言葉に昨日は気が動転して母に連絡を入れることを忘れていたことをようやく思い出した紡木は、一気に冷や汗が噴き出てきた。
どうしよう…、もう、正直に言うしかないよね。
紡木は心の中でそう呟くと覚悟を決めて口を開いた。
「実はね…昨日駅前でお父さんに会った。」
紡木がそう言うなり、母は大きく目を見開いて、「え…。」と声を漏らした。
「そしたら、お父さんと知らない女の人が裸で寝てる情景が浮かんで、気持ち悪くて、怖くて、友達の家に逃げてたの。
家に帰って独りになりたくなかったし。
…ごめんなさい…。」
俯きがちに、一生懸命そう述べる紡木を母はぎゅっと抱きしめた。
「おかあさ…「ごめんね、花奏。」
紡木の言葉を遮るように、母はぽつりと溢した。
なんで、お母さんが謝るの…?
そう言おうとしたが、涙が溢れて言葉にできなかった。