西園寺先生は紡木さんに触れたい

「やっぱり、僕から事情を話そうか?」


西園寺は紡木の家の前に着くなり、不安げな顔をしてそう提案したが、紡木は首を振った。


「…大丈夫です。ありがとうございます。」


これ以上先生に迷惑をかけるわけにもいかないし、先生の家で一夜過ごしたなんて知られたら母は気を失ってしまうかもしれない。


第一、先生の立場的にも決して良くないわけだし。


そんな思いで首を振った紡木は、「じゃあ、また。」と、颯爽と車を降りて会釈をするとアパートの中へと消えていった。


西園寺はその背中を未だに不安げに見つめていた。


あんな切ない顔して、飛び出すように車から降りられたらそりゃあ不安になるでしょ。


僕が紡木さんの代わりにお母様に事情を説明してあげようって思っちゃうでしょ?


いや、そう見えていただけかもしれない。
そう思い込んでまで紡木さんの人生に入り込みたいだけなのかもしれない。


紡木さんにタオルケット越しとはいえ抱きついて、何も起きなかったとはいえ一夜を共に過ごしたのに。


まだ、もっと、彼女に触れたくなる。


いったいいつからこんな我儘な人間になったんだろうか。


西園寺はフッと自嘲気味に笑うと、車を出した。


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