雪の国の恋、とけない魔法

返事は出来なかった。気の利いた言葉の一つも思い浮かばない、普通な事なの? 世の中、そんないろいろ大丈夫なの?

幸い洗面もお風呂も済ませていたから、あとは寝るだけだったけど、備え付けのゆかたに着替えるわけにもいかないから、この上着を脱いで、ルームウェアで寝れるけど⋯⋯ 。


「ほら、冷えちゃうよ」

「えっえっ? じゃ、はい? 」


とにかく壁側に入ったよ、ベットに。

ぱちん

部屋の隅にある夜用なのかな、暗めの電気だけ残して、消されました。

でも動いたら布の擦れる音がしちゃう、息、静かにしないと聞こえちゃう⋯⋯ 。

と隣の上月さんが、ゴソゴソ動いた!

うぎゃ、こっち向いた⁈

微動だせず、まっすぐの姿勢のまま、カチコチしてたら、


「フッ」


って笑い声が聞こえた。


「肩凝るよ? 」


カチコチ


「ははっ」


上月さんの笑い声。
恥ずかしい。なんか、どうしよう、顔が熱くなってきて、布団を引き上げた。


「ね、オレの事もしかして苦手? 」

「えっ? 」


目だけ上掛けから出して見たら、上月さんが真顔で聞いていた。


「え、いえ、苦手ってそんな、どうして⋯⋯ 」

「嫌い? 」

「そんな嫌いなわけっ! 」


とパッと布団をめくって、上体を起こしてあわてて言ったら、彼はやはり真剣な顔をしていた。


「嫌いなはずない、です」


って、ちゃんと言うのに、何だか詰まってしまって、声が出にくいような、空気が濃くなったみたいな、思わず見つめ合って、しかもベットの上だった。


「そう、よかった⋯⋯ 」


静かに上月さんが言った。
よかった⁈ 見つめ合ったまま、目が反らせなくなって、えっと、えっと⋯⋯ 。


「カレシはまさかいないよね? 」

「! いたら逆にこんな状況、絶対ダメじゃないですか! 」


って、思わず大きな声で言った。

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