君だけに捧ぐアンコール
プロローグ
──魔法使いみたい。

彼の演奏を聴いた瞬間、そう思った。

光り輝く音がする。
キラキラという形容詞がピッタリ合うような。彼の指に合わせて音が踊る。

ラフマニノフ作曲、ピアノ協奏曲第二番。

冒頭、鐘の音を思わせる和音が力強く鳴り響く。オーケストラが雄大なメロディを奏で、ピアノは波のように押しては返す。
重々しいメロディの中で、低音さえも美しく響いてオーケストラと共鳴する。
そして疾走感に心が躍る。

ピアノが光り輝いて見えるのだ。

音が輝くなんて、今まで知らなかった。
彼自身も神々しい魔法使いのようだ。

最終楽章に辿り着く頃には、彼の奏でる音色に夢中だった。

最後の音が鳴り響くと、割れんばかりの拍手が起こる。
その日客席に座る者は皆、彼の魔法にかかっていた。

あの指先で奏でる音楽をもっともっと聴いてみたい。

なんて素敵な音なの…?!

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