幼なじみじゃ、いられない。

この前まで……そうかな?

あたしはもっともっと、思い出すのも難しいくらい昔だった気がする。


「……ひなちゃん?」

「あっ、はい、すみません」


物思いに耽ってボーッとしてしまっていたあたしは、先生に声をかけられて慌ててピアノの前に座った。



5歳になったばかりの頃から、ずっと習っているピアノ。

大きなコンクールで受賞したりとか、そういう経歴はほぼないに等しいけれど、あたしはピアノを弾くのが好き。


練習すれば、するだけ上達して。

音が自分の気持ちを代弁してくれる、そんな気がするから。


何もかもが普通なあたしの、唯一のちょっとした特技かもしれない。



「うん、今の流れとっても良い感じだった!ここの部分少し早くなってたから、もう少しゆっくり弾いてみようか」


45分間の練習も終盤。

課題となる部分を先生が楽譜に赤鉛筆でしるしを付けてくれていると、ガチャッと部屋の扉が空いた。

次のレッスンの人がやって来たのかと思ったけど、違う。
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