敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
そんなことを思いながらふたりを見ていると、匡くんの視線が不意に私に向かった。目が合ってドキッとする。
「杏、三日後に戻る」
「うん、気をつけてね」
そう言葉を返せば匡くんが優しげに目を細めて私を見つめる。それにまたドキッとして思わず視線を逸らそうとすると、不意に彼の手が私の腰に回り、体ごと引き寄せられた。
「行ってくる」
そう囁いて匡くんは一度だけ私をぎゅっと抱きしめてから、名残惜しそうに体を離した。
私の髪をくしゃりと撫でると、くるりと身をひるがえして、来た道を戻っていく。そこで待っていた同僚と合流後、少し言葉を交わして再び歩き始めた。
どんどん小さくなっていく匡くんの後ろ姿を見つめながら、さっきからトクトクと高鳴る鼓動を鎮めるように私は胸の前でそっと拳を握りしめる。
体には抱き寄せられた感覚が、耳には囁いた彼の声がまだ残っている。
どうしよう……。匡くんがかっこよすぎて胸が苦しい。
「……お兄ちゃん。私、今すごく匡くんにきゅんってしてる」
「そうか、そうか。もっときゅんきゅんしてやれ。あいつよろこぶぞ」
兄が意味ありげにくすりと笑うのを見て、先ほど兄と匡くんが交わしていた会話を思い出した私はふと尋ねる。
「お兄ちゃんって匡くんが私を好きなこと知ってたの?」
長い片想いとかもう叶わない恋とか、そんなことを匡くんに言っていた気がする。けれど兄は「さあな」とごまかしてトレンチコートのポケットに両手を突っ込んだ。