敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
すれ違う人たちの視線が匡くんを追い掛けて、やがてその視線は彼が向かっている方向である私と兄に注がれる。
兄のせいで注目の的になってしまった。恥ずかしい。
「どうしてお前たちがここにいるんだ」
目の前で歩みを止めた匡くんが不思議そうな表情を浮かべて私と兄を交互に見る。
きっちりと制帽まで被る彼がふと知らない人のように見えて、匡くんって本当にパイロットなんだなぁとそんな今さらな感想を抱いてしまう。
ぼんやりとしている私よりも先に口を開いたのは兄だ。
「これから出張なんだけどパスポート忘れちゃって。たまたまうちに遊びに来ていた杏に届けてもらったんだよ。な、杏」
同意を求められたのでうんと頷いた。匡くんが呆れたように深いため息をこぼす。
「慎一。お前、俺の奥さんに忘れ物届けさせるなよ」
俺の奥さん……。
匡くんから自然に飛び出てきた言葉にドキッとして体が強張る。
そうだよね、私は匡くんの奥さんなんだ。そう思ったら照れてしまい、頬がぽっと赤く染まる気がした。
一方で兄がにやにやとした笑みを浮かべながら「奥さんねぇ」と、なにやら意味ありげに呟いている。匡くんが眉間に皺を寄せた。
「なんだその顔は」
「いや、別になんでも。ただ、匡のなが~い片想いが実ってよかったなって思ってさ。もう叶わない恋のはずだったのにな」
よかった、よかった、と兄が匡くんの背中をぽんぽんと叩き、「やめろ」と匡くんがその手を振り払う。
長い片想い……。
匡くんはそんなに前から私のことを好きでいてくれたの?
そしてあの口振りだと兄はもしかして匡くんの気持ちを知っていたのかもしれない。