敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
そう言われてもやっぱりピンとこない。
うーん……と、首をひねっていると、切り替えの早い麗奈さんの中ではもうその話は終わったらしく、すぐに次の話題を振ってくる。
「あっ、それじゃあ沖縄で藤野さんと話していた女の子も杏ちゃんなのかしら。昨年の九月、杏ちゃん沖縄に行った?」
「九月……あ、はい。行きました」
出張ネイルのため那覇市にある牧野さんの自宅を訪れたときのことだろう。
「私の夫もジャパンウイングエアラインのパイロットなの」
「そうなんですか⁉」
麗奈さんが既婚者なことは知っていたけれど、まさかお相手がパイロットだったとは。
そのことと私が九月に沖縄に行ったことがなにか関係しているのだろうか。
「副操縦士なんだけどね、昨年の九月に藤野さんと同じ沖縄便に搭乗してそのまま那覇市のホテルにステイになったの。夕食に出掛けた沖縄料理屋で、藤野さんの知り合いの女の子に会ったって聞いたけど、杏ちゃんかしら」
「はい、たぶん私です」
そのときのことなら覚えている。
あのとき匡くんと一緒にいた男性が麗奈さんのご主人だったんだ。でもそういえば赤嶺という苗字で呼ばれていた気がする。
どこかで聞いたことがあると思ったけれど麗奈さんと結びつかなかった。彼女のことはいつも名前で呼んでいるから気付けなかったのかもしれない。
「夫が言うには、杏ちゃんと話していたときの藤野さんは仕事中には絶対に見せないようなとろけ切った顔をしていたんですって。だからきっと一緒にいる女性は藤野さんにとって特別な人なんだろうなって思ったそうよ」