敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

「とろけ切った表情ですか」

 私にはよくわからなかったけれど、あのときの匡くんはそんな表情で私と話していたんだ。

「藤野さんは杏ちゃんのことがとっても好きなのね。可愛くて仕方ないのかしら」
「そ、そうなんですかね」

 麗奈さんの前では恥ずかしくてとぼけるように笑ってしまったけれど、私はちゃんと匡くんからの愛をたっぷりと感じている。

 その愛をしっかりと受け取って、私も匡くんに返せるようにするには、まずは和磨のことを解決させないといけないと思った。

 実は今朝、匡くんから慰謝料についての話をされた。兄から聞いて私が和磨にそれを貰わないまま離婚したことを知っていたらしい。

 あのときは和磨の不倫を知って動揺していたし、そんな男とは少しでも早く関係を切りたくて、慰謝料についての話し合いをすることもなく離婚届に判を押してしまった。

 以前、匡くんが呟いていた〝然るべき方法〟とは慰謝料のことだったようだ。 

 すでに彼は知り合いの弁護士に連絡を取っていろいろと調べてくれたらしい。それによるといくつか条件はあるものの離婚後も慰謝料は受け取ることができるそうだ。

 そしてその条件を私はたぶん満たしている。こちらから動けば今からでも和磨に慰謝料を請求することができるのだ。
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