敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

「それなら私も同じだよ」

 匡くんの横顔を見つめながら私は微笑んだ。

「私がどうしてネイリストになりたいって思ったか匡くん知ってる?」
「ネイルが好きだからだろ」
「そのきっかけを作ってくれたのは匡くんだよ」
「俺? ……悪い、なにも思い当たらない」

 匡くんが申し訳なさそうな表情を作るから、教えてあげる。

「中学生の頃、お母さんのマニキュアをこっそり借りて初めて自分の爪にネイルをしたの。匡くんと一緒にお兄ちゃんの誕生日プレゼントを買いに行った日だよ」
「待てよ。ちょっと思い出してきた……たしか赤色だったよな」

 確認してくる匡くんに「あれはオレンジレッドっていんだよ」と、細かい情報を付け足してから続きを話す。

「人が多くてはぐれそうになった私の手を握ってくれた匡くんが私の爪に気付いて、可愛いじゃんって言ってくれたのがうれしかった」

 ふと自分の爪を見つめる。今日もあの日と同じオレンジレッドのマニキュアだ。和磨と対峙するのに気合を入れるべく、思い出の色を身に着けてきた。

「匡くんのひと言で私はネイルが好きになって、仕事にしたいって思うようにもなったんだよ」
「そんな理由で?」

 聞き返されてしまい、「そんな理由だよ」と笑って答えてから私はふと顔をしかめる。
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